本谷有希子、始めての原作モノ!
しかも糸井重里氏が16年前に書いた、今はもう絶版になっている小説をはりきって舞台化します! ……駄目もとでお願いしてみたら、意外にも許可もらえてしまいました。 ぶつかってみるもんですね、何事も。 そしでチラシの絵も、文庫本のカバーと同じ吉田戦車さんの描き下ろしです!

個人的にこの小説のような、狂った人が一人も出て来ないのに物事がおかしな具合にねじれ曲がっていくお話というやつには何故か心惹かれます。誰も悪くないのにいつの間にか大きく道を外していく人達というのは何とも魅力的です。私はそれを常々、ボタンを掛け違えて殿方の気を引く婦女子の胸元のようなものではないかな、と思ったり思わなかったりしております。
そしてそんな芝居を「何となく新宿のタイニイアリスでやろうぜ!」
っていう、自分達の心意気も素敵じゃん?と思います。内容は、この公演タイトルを目にして分からないお客さまなどいらっしゃらないように、ある家族の物語です。家族の中に狂人は誰一人おりません。サラリーマン、専業主婦、OL、浪人生、思春期の子供、とどこにでもいるような人々がある時ふと、自分達が乗り込んで航海している船がかなり怪しいということに気付いてしまうのです。あくまでも喩えですが。しかし更に喩えるなら、船長の目は光を失った灰色で、もはや何も見えていなかったりします。
「おいおい、これ絶対に進路合ってないだろ」と家族の全員が考えます。でも誰もそのことを口にしようとはしません。何故なら家族の船は沖を離れて、もう二十年近く海を進み続けているのです。今更間違いを指摘したところで無駄になった二十年間は戻って来ないのです。どこに向かっているか分からない船の舵を握り締めながら、船長は半笑いを浮かべています……。

情熱に任せてなんだか訳の分からんことを書いてしまいましたが、船とか具体的にはなんら関係ありません。とにかく路頭に迷いたくない普通の家族の、戻るに戻れない人達のじわじわっとした物語です。
小説の面白さを損なわないよう本谷が慎重かつ大胆に舞台化しますので、皆様、恋人友人をお誘いの上、タイニイアリスの方に是非とも遊びにいらして下さいませ。

(作・演出、本谷有希子23歳)

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